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研究者紹介

森 知也
森 知也
Tomoya Mori
職名
教授
専門分野
都市経済学
最終学歴
ペンシルバニア大学, 地域科学Ph.D.
CV

研究内容

専門は都市経済学や空間経済学と呼ばれる分野で、都市を始めとする経済集積の形成について、そのメカニズムを説明する理論および実証研究を行っています。なぜ集積に注目するのか、それは、経済的に成熟した国や地域では人口・生産額ベースで7,8割を超える経済活動がほんの数パーセントの面積に集中しているから、つまり、ほとんどの経済活動は集積の形で存在するからです。集積の形成パターンは、国や都道府県レベルで集計してしまうと見えなくなってしまいますが、集積を地域単位としてみると、多くの国や地域がその内部で、極めて規則的かつ似た構造を持っていることが分かります。例えば、都市の規模・産業構造・位置などは、概ね空間的なフラクタル構造を持っていて、政策などにより外から制御できる自由度は意外に小さいことがわかってきています。実際の都市群がシステムとしてどのような構造を持つのか、なぜそのような構造が発現するのか、などが私の研究テーマです。

連載コラム:都市というレンズを通してみる日本の未来

主要成果

1.

Common power laws for cities and spatial fractal structures. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 117(12) 6469-6475, 2020. DOI:10.1073/pnas.1910314117. (with T. E. Smith & W.-T. Hsu) DOI:10.1073

概要

多くの国において都市の人口規模分布が概ねべき乗則に従うことは既知の事実です。この論文では、このような秩序形成が国レベルに限らず国内の地域レベル、さらに各地域内のより小さな地域においても再帰的に観察される事実を、日本・アメリカを含む6カ国のデータを用いて実証しています(上の画像をクリックしてみてください)。べき係数は国によって若干違いますが、共通して言えることは、各地域の都市群の配置は概ね国内の都市群の配置と相似関係にあり、中心の大都市を小都市群が取り囲むかたちになっていることです。都市の人口規模は、産業の多様性・家計所得・学歴など他の様々な社会経済指標と強く相関するため、この事実は現象として興味深いだけでなく重要な政策的示唆を持っています。どの都市が成長するか、それは椅子取りゲームであり、椅子の数が増えたり間隔が変わったりはしにくく、都市の規模・空間分布は維持される傾向にあります。そもそも国レベルで都市規模分布がべき乗則に従う事実は、国の領土も長期的には内生的な地域形成の結果であることに他ならないからかも知れません。中心都市は際限なく大きくはなれず、その規模は技術水準などで制約されます。自ずと国の規模も制約され、かつてのローマ帝国や中国の王朝など、巨大な国が長く続かなかった理由と、この研究で明らかにしたべき乗則を伴うフラクタル構造は密接に関係しているかも知れません。

2.

On the spatial scale of industrial agglomerations. Journal of Urban Economics 89: 1-20, 2015. DOI: 10.1016/j.jue.2015.01.006. (with T. E. Smith) LINK

3.

The number-average size rule: A new empirical relationship between industrial location and city size. Journal of Regional Science 48(1): 165-211, 2008. DOI: 10.1111/j.1467-9787.2008.00550.x (with K. Nishikimi, T.E. Smith) LINK

4.

A divergent statistic for industrial localization. Review of Economics & Statistics 87(4): 635-651, 2005. DOI: 10.1162/003465305775098170 (with K. Nishikimi, T.E. Smith) LINK

5.

Skills, agglomeration, and segmentation. European Economic Review 49(1): 201-225, 2005. DOI: 10.1016/S0014-2921(03)00018-7 (with A. Turrini) LINK

6.

On the evolution of hierarchical urban systems. European Economic Review 43(2): 209-251, 1999; DOI: 10.1016/S0014-2921(98)00066-X (with M. Fujita, P. Krugman) LINK

最新の未出版論文・講演・コラムなど

1.

都市という「レンズ」を通してみる日本の未来 (連載コラム) LINK

概要

日本はいま、高齢化を伴う人口減少が最も進んでいる国です。2020年時点で1億2700万人であった総人口は、いまの調子で子供が減っていくと、100年後には3,000万人から5,000万人程度まで減少すると考えられています。3,000万人とは江戸期の人口規模で、現在の東京都市圏より小さいサイズ、5,000万人とは、およそ東京と大阪都市圏を合わせたサイズです。多くの都市や地域から人が去り、地方の景色はずいぶん変わるでしょう。わたしたちが住む地域は一体どうなってゆくのでしょうか。このページでは、経済理論とデータを駆使して、将来の日本の地域の姿がどのようなものなのか予測し、この未曾有の人口減少を、どのようにしてチャンスに変えられるのか考察します。2023年12月より月1回のペースで連載します。

連載コラム:「都市」というレンズを通してみる日本の未来

2.

都市経済学会 夏季集中講義 (2023年5月29-31日, ケベック大学モントリオール校) LINK

概要

2023年5月29-31日、ケベック大学モントリオール校にて開催された都市経済学学会サマースクールで用いた講義スライドです。世界各国から集まった大学院生約50名に対して、選抜講師6名が3日間に渡り、2時間ずつ講義しました。私は、経済集積理論の基礎から最新のテーマについて担当しました。

3.

都市経済の秩序形成と都市の未来 (2022年8月20日, 高校生向け講義) LINK

概要

2022年8月20日、京都大学にて開催された、高校生のための体験型科学講座「ELCAS(エルキャス)」で使った講義スライドです。

講義概要:経済的に成熟した国々では、8割を超える経済活動が数パーセントの面積に集中し、都市を形成しています。都市に注目すると、地域経済は極めて明確な数理的秩序で特徴づけられます。具体的には、大都市を小都市が囲み、小都市をより小さな都市が囲み、大小都市の人口比や配置が都市群全体と部分で相似となる、フラクタル構造が保たれています。一方、インターネットの普及、ウェブ会議システムやメタバースの出現は、通信をより自由にし、人が都市に物理的に集まることを不要にしつつあります。この講座では、なぜ秩序が生まれるのか、移動や通信を阻む距離の壁が崩れゆく中で、都市や地域経済はどう変わるのか、理論とデータを使って説明します。

4.

Origin of power laws and their spatial fractal structure for city-size distributions. arXiv:2207.05346, 2022 (with T. Akamatsu, Y. Takayama, M. Osawa).

概要

City-size distributions follow an approximate power law in various countries despite high volatility in relative city sizes over time. Our empirical evidence for the United States indicates that the scaling law stems from a spatial fractal structure owing to the coordination of industrial locations. While the locations of individual industries change considerably over time, there is a persistent pattern in that more localized industries at a given time are found only in larger cities. The spatial organization of cities exhibits a hierarchical structure in which larger cities are spaced apart to serve as centers for surrounding smaller cities, generating a recursive pattern across different spatial scales. In our theoretical replication of the observed regularities, diversity in scale economy among industries induces diversity in their location pattern, which translates into diversity in city size via spatial coordination of industries and population. The city-size power law is a generic feature of Monte-Carlo samples of stationary states resulting from the spontaneous spatial fractal structure in the hypothetical economy.  The identified regularities reveal constraints on feasible urban planning at each regional scale. The success or failure of place-based policies designed to take advantage of individual cities’ characteristics should depend on their spatial relationships with other cities, subject to the nationwide spatial fractal structure.

5.

Collaborative knowledge exchange promotes innovation.  arXiv:2210.01392, 2022 (with J. Newton and S. Sakaguchi)

概要

Considering collaborative patent development, we provide micro-level evidence for innovation through exchanges of differentiated knowledge. Knowledge embodied in a patent is proxied by word pairs appearing in its abstract, while novelty is measured by the frequency with which these word pairs have appeared in past patents. Inventors are assumed to possess the knowledge associated with patents in which they have previously participated. We find that collaboration by inventors with more mutually differentiated knowledge sets is likely to result in patents with higher novelty.

6.

Multimodal agglomeration in economic geography. arXiv: 1912.05113, 2023 (with T. Akamatsu, M. Osawa, Y. Takayama) LINK

7.

Centrality bias in inter-city trade. Ruhr Economic Papers #1013, University of Duisburg-Essen, 2023 (with J. Wrona) LINK

概要

この論文では、日米の都市間貿易データを用いた地域経済圏形成を実証しています。国内の地域経済では、大都市を小都市群が囲み、個々の小都市をさらに小規模な都市群が囲む、入れ子状の都市配置が実現しています。中心地理論と呼ばれる都市形成に関する理論は、このような都市の配置を多数の産業の空間的なコーディネーションにより説明します。例えば、固定費用の高い産業においては企業の参入に大きな市場が必要なため、立地はごく少数の都市で起こり、財・サービスはそこから広範囲に供給されます。一方で、固定費用の低い産業では、小規模市場でも企業参入が可能なため、多くの都市に立地が起こります。都市間の貿易データを分析すると、より少数の都市に立地する産業は、実際により広範囲に移出していることがわかります(図A)。このように、産業によって立地の空間的頻度は異なります。一方で、多くの財・サービスは直接・間接的に消費者を共有するため、異なる産業は互いに惹きあい、共通の都市に立地する傾向があります。例えば、劇場がある都市には映画館もあり、映画館がある都市にはパン屋があるように。(逆に、パン屋がある都市に必ずしも映画館はなく、映画館がある都市に必ずしも劇場はありません。) 都市の立地産業数と人口規模は相関し、産業が多数立地する都市は大都市に、逆に少数の産業しか立地しない都市は小都市になり、図Bのような産業立地と都市配置が実現します。中心地理論は、大都市の周囲にはその立地産業の商圏に基づく地域経済圏が形成され、都市間の貿易は圏内でより密に行われることを示唆しています。実際に都市間の貿易データを分析すると、大都市(中心地)はその周辺小都市群(後背地)に対して顕著に移出していることがわかります。中心地から他都市への貿易が地域経済圏界を越え他の中心地の後背地に対して行われるとき、貿易量は距離による減衰に加えてさらに2/3から半分に減少することがわかりました(図C)。このことは、地域経済圏界において不可視な壁が存在することを意味します。論文では、この「中心地バイアス」が、多数産業間で起こる立地のコーディネーションに起因することを明らかにしています。Mori et al. (2020)では、この論文で注目する地域経済圏が、都市規模分布のべき乗則を伴う空間的なフラクタル構造を持つことを示しています。

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