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HOME > 論文(その他) > 銀行経営における最適資産・資本配賦問題

刈屋武昭, 池森俊文, 福田敬,中里大輔 「銀行経営における最適資産・資本配賦問題」

 本稿の狙いは、銀行のバンキング業務に関して最適資産配分・資本配賦問題を考える上での基本的な枠組みを提供し、具体的な解を与える計量的分析の一例を提示することである。特に貸出行動の最適化を行う場合、銀行経営全体の最適性と各支店経営の最適性との間の整合性が課題となるが、ここでは両者の整合性を考慮した分析の枠組を展開する。その結果、各支店への資本配賦を考えるよりも、各支店ポートフォリオの格付クラスへの資産配分を考える方が、銀行経営の目的合理性から見て適していることを示す。

 日本の金融機関でも、金融ビジネスにおけるリスク管理の重要性を認識して以来、資本の有効利用の視点から、業務ラインへの資本配賦問題が議論されてきた。中でもバンキング業務における支店への資本配賦の問題は、BIS自己資本規制との関係も含めて、90年代を通して多様な議論がなされてきた。その議論を展開する上で重要となるのが、資本配賦問題に直接に関係する信用リスク評価問題である。これまでのBIS規制では、バンキング資産に対し、国債、住宅ローン、貸出などの資産区分に従って、リスクウェイトを0,0.5,1.0などと与え、それを元本金額に掛けることで信用リスク評価を行ってきた。しかし、この単純な資産区分別リスクウェイトによるリスク評価法では、信用リスク評価の精度が粗く、ポートフォリオ効果も考慮されていないため、銀行の最適性を求める主体的な貸出行動を具体的な形で議論することができない。加えてこの規制は、そもそも銀行の主たる業務である貸出にディスインセンティブを与えるものとなる。その意味で、BIS規制とは別に、より実態に合った信用リスク評価手法の導入が必要であった。また、銀行経営をリスク・リターンの観点から最適資産配分・資本配賦問題として定式化するためには、収益性(リターン)に関する情報の導入が必要であった。

 信用リスク評価手法については、1990年代に、学界と民間の相互交流を通して、重要な信用リスク計量モデルが開発された。その結果、貸出ポートフォリオの信用リスク測度として、信用バリュー・アット・リスク(VaR)、あるいは条件付期待ショートフォール(条件付VaR)などの測度が、銀行の資本配賦問題や経営上の意思決定問題で重要な役割を果たすようになった。

 このような信用リスク測度を利用して、バンキング業務における資本配賦問題を考察する場合、上記の国債、住宅ローンなどの資産クラスへの資本配賦問題以上に重要な問題は、銀行全体としての貸出行動の最適性と、各支店での実践的な貸出行動の最適性との間の整合性である。この整合性が確保されない限り、資本配賦問題の全体的な最適性が確保されないことになる。

 本稿で扱う問題は、この銀行全体の貸出行動の最適性と、各支店の貸出行動の最適性との整合性を考慮した資産配分・資本配賦問題を分析する枠組を提示し、最適資産配分・資本配賦の解を与える具体的手法の一例を提供することである。

 この問題を議論する場合、資産配分・資本配賦のアプローチとして、

(1) ボトムアップ・アプローチ
(2) トップダウン・アプローチ

を区別することが多い。
 (1)のアプローチは、各支店に一定の自律的・柔軟的な意思決定権を与えないと、実践的な貸出行動が困難になることを考慮したアプローチである。その理由としては、実際の貸出行動をするのは各支店であり、与信先の定性情報などに関し、本部に対して情報優位であること、貸出量の調整には時間がかかり、トレーディングポートフォリオの調整のようには、貸出ポートフォリオの調整は上手くいかないこと、などが挙げられる。

 他方、(2)のアプローチでは、本部が銀行全体として、貸出ポートフォリオのリスク・リターンの最適性を追求することを優先する、という考え方に基づいている。その場合、各支店の最適貸出ポートフォリオを統合しても、銀行全体の貸出ポートフォリオの最適性が確保されるとは限らない点が(2)のアプローチをとる主たる理由であろう。そこでは、(1)においても、あるいは(2)においても、資産配分・資本配賦を基礎とした貸出制約ルールの設定による、部分ポートフォリオと全体ポートフォリオのリスク・リターンの関係を十分に理解し、かつ最適性に関する定義を明確にして、支店の貸出行動に関するルールを具体的に設定していくことが銀行経営において重要となろう。



『銀行経営における最適資産・資本配賦問題』 (PDF)

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