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年次報告

このページでは、年度ごとに、研究拠点形成活動の成果を報告します。

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平成18年度 年次報告書

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平成18年度年次報告書
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平成18年度の研究拠点形成実績の概要

国際的拠点活動・研究交流

2006年7月24日から28日に、11th International Conference on Differential Equations and Applicationsが本学百周年時計台記念館にて、岡山理科大学と慶應義塾大学COEの協力を得て、日本数学会、国際差分方程式学会、京都大学数理解析研究所、理学部数学科教室および本21COEプログラムの共同で開催した。5日間の日程で行われた国際コンファレンスには、内外から145名の研究者が参加し、Maryland大学のYorke教授、Trinity大学のElaydi教授をはじめ、国際的な研究者の講演が行われた。発表内容は、数学、差分方程式を応用した物理学、経済学、生物学などの多岐にわたり、参加者によって活発な議論がなされた。

6回の国際コンファレンスを開催し、Roger Farmer 教授(UCLA)、T. W. Anderson (スタンフォード大学)、David Weinstein(コロンビア大学)をはじめとして世界的な研究者を多数招へいするとともに、当拠点メンバーも世界に向けて積極的に情報を発信した。

COE研究員として採用した2名の若手研究者は、それぞれ、経済動学、ゲーム理論を専門とし、国際学会での報告を行うなど、活発な研究活動を行った。経済研究所では、従来から先端的経済理論の研究者を中心として、海外研究者からの訪問希望が数多くあったが、本COEの拠点活動によって、さらに多くの海外研究者が訪問を希望するようになっている。これに対応するため、先端経済学分野で活躍する外国人研究者を経済研究所の常勤の教員として雇用し、21COEプログラムへの協力体制を強化した。

本COEプログラムと京都大学大学院理学研究科物理第一教室が協力し設立したカリフォルニア大学複雑系研究所(ICAM)京都支部ICAM/Kyotoでは、大規模な学際的国際コンファレンスの平成19年度開催に向けて、準備作業を開始した。また、日本初の国際的経済理論専門誌International Journal of Economic Theory (Blackwell)、および経済学の周辺分野をも含む経済学の国際総合学術誌The Kyoto Economic Reviewの出版活動を順調に行っている。

若手研究者育成
さらに、大学院生をはじめとする若手研究者養成のための種々の教育プログラム、研究支援プログラムを実施している。

(i) COE連続講義・COE大学院連携講義
若手研究者育成事業の一環として、マクロ経済学・計量経済学に関する先端的研究を、その分野の第一線で活躍する研究者が解説する、COE連続講義を企画、開催した。平成18年度は、マクロ計量経済学、ミクロ計量経済学についての連続講義を開催した。また、COE事業担当推進者がリレー形式で研究内容について講義を行うCOE大学院連携講義を開講し、平成18年度は、「経済心理学」および「先端政策の解説と施行の実際」についての講義を行った。

(ii) 大学院生の能力の増進:英語能力開発支援プログラム
博士後期課程在籍者を対象に、英語論文の作成、国際学会でのプレゼンテーションのトレーニングを行うための能力開発支援プログラムを継続実施した。参加学生の中には、その成果を生かし、国際学会での発表を行ない、海外学術雑誌で論文を公表する者も出ている。

(iii) 若手研究者育成活動
若手研究者を広く公募し、2名をCOE研究員として採用した。また、若手研究者研究活動経費助成制度を設け、後期博士課程学生を中心として、研究活動のための資金および本COEメンバーから選ばれた受入教員によるアドバイスの両面から研究を支援した。RA・TAとして多くの大学院生を雇用し、本COEの推進に携わることを通じての研究・教育活動のトレーニングを行った。これらの若手研究者の研究成果は、評価委員会による審査を経た上で、本COEのディスカッションペーパーとして公表されている。さらに、若手研究者の研究の質を高めるために、評価委員会および受入教員による研究内容のモニター・評価を行っている。また、若手研究者が自ら企画・運営するワークショップ(ユース・ワークショップ)の開催を支援する制度も設けている。

インターフェイス活動の促進
研究グループリーダーを中心とした先端経済分析研究推進機構運営委員会を定期的に開催し、以下のような活動を行った。

(i) 「複雑系経済学」、「金融工学とグローバル・ファイナンス」、「経済情報解析」の3つの研究グループの共同による学際的活動として、日本数学会等と連携して差分方程式の国際会議を開催した。

(ii) 平成16年度から継続して、若手研究者の研究を推進するために、「ユースワークショップ」を実施している。各研究グループの若手研究者による自発的ワークショップを支援すると共に、グループを超えた若手研究者の研究交流を深めるためのワークショップを内外で実施した。

(iii) 学際的研究を推進するために、学際的研究会、シンポジウムの開催を積極的に支援した。

研究成果の還元

(i) 本COEの研究成果の積極的な社会還元を図って、社会性の高いコンファレンスやシンポジウムの模様の録画中継をインターネット上で行い、すべての人が視聴可能となるような先駆的な試みを継続中である。現在、9件のコンファレンス・シンポジウムを動画配信している。

(ii) 経済学の先端分野での研究内容を広く一般市民向けに解説するシンポジウムや産学連携シンポジウムを開催することで、産業・行政・地域における専門知識と能技の普及を図った。とくに、ノーベル経済学賞受賞者であるジョゼフ・スティグリッツ教授(コロンビア大学)を招いて「フェアトレード」に関する市民向け講演会を開催した。また、本プログラムにおける最先端の研究内容を一般向けにわかりやすく講義することを目的として、COE公開講座を開催、多数の一般からの参加を得ている。

(iii) 本年度は3号のNews Letterを発行し、研究成果を社会に向けて発信した。

 

平成18年度の研究拠点形成に係る具体的な成果

研究拠点形成に向けて改善・整備されたこと
中間評価のコメントを受けて、経済学研究科と連携し、大学院博士コース修士課程の教育に関し、以下のような改善を行った。

(1)COE事業担当推進者が中心となり、大学院の基礎科目を再編し、ミクロ経済学、マクロ経済学、計量経済学などコア科目を、レベル別に提供し、国際標準に従った内容の教育を行っている。

(2)平成18年度から「大学院基礎科目履修ガイドライン」を発行し、必修科目を明記し、学生が研究に必要となる知識を体系的に効率よく身につけることができるようにした。

(3) COE事業担当推進者がリレー形式で研究内容について講義を行う「COE大学院連携講義」や国際的に活躍する研究者の最先端の研究に触れる機会を提供する「COE連続講義」を継続的に提供している。



研究等によって得られた新たな知見および研究活動の成果
複数の研究グループによる共同研究活動として、「複雑系経済学」、「金融工学とグローバル・ファイナンス」、「経済情報解析」の3つの研究グループが協力し、日本数学会等と連携の下、差分方程式の国際会議を成功裡に開催し、多数の国際的研究者の学際的交流の場を提供した。
各研究グループについての研究活動および研究成果は以下のようにまとめられる。

「金融工学とグローバル・ファイナンス」研究グループ
  平成18年度、金融工学とグローバルファイナンス・グループでは、3つの方向で研究を進めた。
  第一に、M&Aを行う企業の資金調達問題について、理論的研究を進めた。具体的には、M&Aを行う企業の資金調達手段としては,大きくわけて,負債によるものと株式交換を含む新株発行によるものとがあり、どのような資金調達手段をとるかによって、買収企業の既存株主の利益は大きな影響を受ける。どのような場合に、どのような資金調達手段がとられるかを理論的に明らかにした。合わせて、コーポレート・ガバナンス理論と金融工学理論との統合に関しても研究を進めている。
 第二に、保険商品と金利の変動について、理論的研究を進めた。一般に,保険商品は満期が長いので、金利の変動に強い影響を受けることが知られている。しかし、保険商品のペイオフは複雑で、特にパスに依存するタイプのペイオフを持つため、金利が変動するモデルで解析解を導くことは困難であった。この問題を解決するために、特別な先渡し測度を導入することで準解析解を導いた。本手法は保険商品だけでなく、パス依存型ペイオフを持つヨーロッパ型デリバティブに適用可能である。
 第三に、合理的社会学習理論を利用して、扇動的投機行動について、理論的研究を進めた。一部の投機家の煽動的投機行動が株価変動をもたらすことは周知の事実であるが、これを市場参加者の合理行動の帰結としてとらえる経済モデルは皆無と言ってよい。そこで、上記の事実を合理的社会学習理論、特にherding理論に基づいてモデル化し、投機家の最適株式売買政策を導出し、いくつかの比較静学による分析を行った。合わせて、原資産価格の市場データから、ノンパラメトリックに原資産価格の推移確率密度を推定した上で、代表的な非完備市場での価格評価法からデリバティブ価格の推定を行い、価格推定精度の実証検証を行った。

「複雑系経済学」研究グループ
  マクロ動学モデルを地域間や多国間モデルに拡張し、均衡経路が多数出現する不決定性の問題、多くの主体やより多くの種類の資本財が存在することで生じる、高次元における動学の更なる分析を行った。それらは、マルセーユ大学のAlain Venditti教授、New York大学のJess Benhabib教授、コーネル大学のTapan Mitra教授との共同研究によるものである。なお、西村和雄は、7月に京都大学で差分方程式の数学と応用についての国際会議を主催し、講演を行った。また、Journal of Mathematical Economicsの特集号の編集を終えて、出版を待っている段階である。慶応大学と共同で発行した日本発の国際的学術誌International Journal of Economic Theoryは、第2巻の4号を出版し、第3巻の第2号の編集を終えたところである。投稿数、図書館の定期購買数も順調に増加している。

「環境・医療・通信」研究グループ
  医療では、肥満、喫煙のような生活習慣病の危険因子となるようなライフスタイルの行動経済学的研究を行った。特に、喫煙では、ニコチン依存度に従い、価格弾力性が異なり、低タイプほど、タバコの価格による禁煙効果が高いことが判った。また、低タイプほど、自他の健康リスクに関する情報提供が、 禁煙意欲を高める効果を持つことが判った。
 通信では、ADSLからFTTHへのマイグレーションの効果を計量経済モデルで分析し、NTTグループの市場支配力の高まりが懸念されることを確認した。さらに、固定型ブロードバンドと携帯電話の間のロックイン効果も、計量経済モデルで分析し、やはり固定と移動双方でNTTグループの市場支配力の向上が懸念されることも判った。
 環境では、a) 「持続可能な福祉社会」を目指すために必要となる、「環境政策と福祉政策の統合」を促す政策手段かつ財源調達手段として、環境税を新たに位置づけなおした。b) 大規模排出源を対象としたキャップ&トレード型の下流型排出量取引制度をどのように制度設計すべきかを、環境経済学の立場から研究し、初期配分は無償(グランドファザリング)で行い、中小企業、家庭、運輸部門に対しては排出量取引制度とは異なる別の政策手段を用い、全体としてポリシー・ミックスを構築することを提案した。c) 公害地域再生のまちづくりを社会的共通資本の社会的基準に基づく再生問題と把握し、そうした再生を可能にするまちづくりはコミュニケーションを基礎に置いたエコロジカルな民主主義に手がかりがあることを明らかにした。

「組織と制度」研究グループ
  組織・制度グループについては、まず、制度組織分析のツールとしてのゲーム理論の研究(今井・岡田・関口・梶井らが中心)において、国内他大学との理論ワークショップの開催や他分野グループとの交流がいっそうの進展を遂げた。たとえば、環境経済分析グループとの連携の成果として「京都議定書」のクリーン開発メカニズムのゲーム分析を不完全競争産業のケースに適用した。同時に、実験結果のフィードバック、協力・非協力ゲームの融合、などの研究についても積極的に進められた。今年度に得られた知見としては、たとえば、グラフ理論と意思決定理論やゲーム理論を関連付ける数学概念が開発された。あるいは、事後の配分交渉仮定による提携形成ゲームを純粋交渉ゲームに適用することによりヘドニックゲームの逐次提携交渉分析を行い、ソフトなプレイヤーが優位な提携に入る可能性が高いことを導き出した。また、多層的繰り返しゲームという長期的関係が一つの戦略的状況を生み出す動学ゲームのクラスにおいて、オーバーラップがない場合に比べて協調的行動が達成されやすくなるための条件が導出された。さらには、公共財供給問題の第2ジレンマの発生メカニズムが公共財の供給メカニズムをもつ組織への自発的参加であることを明らかにし、公共財の資本蓄積につれて組織規模が増大することを結論付けた。
  次に、思想史・経営学・非営利組織などの分野に関する研究(八木・溝端・田尾らが中心)では、組織や制度の進化論的な観点からの研究がさらに精緻化された。たとえば、J・シュンペータ、M・ウェーバー、C・メンガー、K・マルクスらの思想における制度的・進化的経済学の側面に関する研究が進められ、類型論に陥りやすい議論を克服しながら、多数主体の相互作用を基礎とした累積的変化とそこからの創発性を理解する進化的論理の構築が議論された。他方、現代の制度変化を分析するためには国民国家的な枠組みを前提した構図ではすでに不十分であり、内生的視点とともに国際統合の視点が重要であることが論じられ、また、変化しつつある制度のもとでのガバナンス、あるいは制度変化自体のガバナンスをどのように構築するかという問題設定の重要性についても検討が進められた。これらの問題は移行経済を吸収して東方拡大を実現した欧州統合に具体的に現れている課題であり、市場経済移行における制度構築過程については、移行過程で制度構築時点の経済環境と経済主体の変動が制度選択に及ぼす影響が明らかにされた。さらに、ロシア企業の社会的責任経営の動態を分析して既存制度の惰性的作用と現代的な制度輸入の接合問題が明らかにされた。また、NPOや公共セクターの経営管理に関する研究では、自治体の人的資源管理についての研究が進展し、今後の社会において公共セクターや行政がどのような役割りを果たすべきかについて多角的な議論が展開された。
  さらに、これらの諸研究を踏まえて現実の組織制度の変転を分析する研究(下谷・成生らが中心)では、まず、バブル経済崩壊後の日本経済の企業制度改革や持株会社制度の問題点について、各種の経済法との関連性や歴史的・国際比較的な研究が進展した。また、いわゆる企業分解現象と企業結合との関連性、あるいは日本企業の分社化戦略などについて具体的な研究成果が蓄積された。さらに、東アジア諸国における持株会社の利用形態の差異に関する研究が進められた。他方、流通組織に関する分野でも流通チャネルのあり方や小売店舗の密度などの問題について国際比較や実証分析にもとづく新たな理論構築が行われた。たとえば、需要不確実性下の複占市場における戦略的分離の研究では、仮にフランチャイズ料が徴収可能ならば両生産者がフランチャイズ料を徴収して小売業者を分離するのが唯一の均衡になる、あるいはフランチャイズ料を徴収できない状況で財が同質的な状況では、両生産者が統合している状況と両生産者が分離している状況の2つが均衡となる。さらには、激しい競争が企業の利益を減少させる状況で、企業はブランドを構築し自社製品を差別化することによって価格競争を緩和するが、このようなブランド構築に際して、日本では企業ブランドが多く見られるのに対して米国では製品ブランドが主流となっており、広告にある種の範囲の経済が存在する場合には、多くの製品に単一の企業ブランドが設定される、などの数多くの新たな知見が得られた。
  最後に、拠点形成活動については、ミクロ経済学ワークショップ、ゲーム理論研究会、比較経済体制研究会、進化経済学会のワークショップ、持株会社研究会などを定期的に開催し、学外からも多くの研究者の参加をみた。そこでは、若手の研究者、大学院生らの積極的な発表が増大しつつあり、また、これらの研究活動の拠点の多くは外国人研究者を交えた国際的な共同研究の場ともなっている。また、北京の中国人民大学で開催したワークショップでは博士後期課程の大学院生9名も参加して、英語による活発な議論を展開した。

「経済情報解析」研究グループ
   経済情報解析研究グループは、経済データを用いた実証的分析およびそれに用いられる計量経済理論の開発という2つの側面の研究に携わっている。
   前者に関しては、本年は以下のような研究が行われた。第一に、引き続き教育制度と労働市場の連関に関わる研究を幾つかの側面から実証分析を行った。高校新卒者市場の分析、中等教育における一般・職業教育の分化に関する国際比較研究などがこれにあたる。更に、中等教育における分化が学力に与える効果の推定を行い、有意な結果を得た。第二に、前年までの企業訓練の分析の分野では、自動車産業におけるミクロレベルでの人的資源管理策や企業訓練の生産性への効果を推定するためのアンケート調査を実施した。第三に日本の所得分配と格差の現状分析と政策課題について研究を行ない、所得再分配政策、階層固定化を防ぐための教育政策、労使関係政策、社会保障政策に関して提言を行なった。具体的には、公共部門の教育支出増額、同一労働・同一賃金政策、消費税15%による社会保障改革、等を提言して、それらの政策がなぜ望ましいかを明らかにした上で、その効果を具体的に検証した。
  計量経済理論の分野では引き続きノンパラメトリック、セミパラメトリック推定量に関する統計的性質の研究や、時空間統計の分析手法に関する統計理論および応用を継続したほか、金融工学との接点にあたる分野での応用を目指す研究も継続した。具体的には(1)パレート分布の元でのrank-size法則の一般化最小二乗推定量の漸近展開を求め、バイアス修正の方法を提案した。また、OLS推定量と併用してパレート性に関するハウスマン検定を導出した、(2)ARCH,GARCH,EGARCH などボラティリティ推定において、Tickdataを利用して実現ボラティリティ計算を行うことで従来型の推定に比べ、信頼できる推定値が得られるようになった。